●セリ馴致の現場

馬にはひとつのルールで接する

── 今、スタッフには担当する馬って決めてなかったですよね。
藤沢 いや、決めてますよ。基本的に全部決めてます。
── 彼らも、自分の世話した馬が売れるとうれしいものですか?
藤沢 そりゃうれしいですよね、馬の仕事って競馬場以外は比較的地味ですけど、そういうところがね、いきがいに感じてもらえれば、きっと仕事が楽しくなるのかなって思うんですけどね。いや、みんなに聞いてみないとわからないですけど、自分はやっぱりそうだったから、そう思ってますけどね。
たとえば繁殖の部分ではお産があって、全く純粋無垢な馬を自分なりに育てていくっていうか、ああいうことを経験すると、本当に馬が好きになる子ってけっこういるんですね。特にそういう分野では女性なんか、すごくおもしろがって、この世界に入る人が多いですよね。
── 今のスタッフは、みなさん地元の方が多いですか?
藤沢 この日高出身というのは少ないですね、ええ。
── やっぱり少ない?
藤沢 少ないですね。けっこう本州からも多いですしね。
── ここにいるスタッフでもそうですか?
藤沢 ええ、場長はここの出身ですけど、あとは青森、札幌、千葉、東京・・・本場のスタッフも含めてですけど、いろいろですね。
あの、わりと経験は私は問わない、馬の経験は問わないですね。変なクセついてるよりは、ここで一から教えたいと思います。出来るだけ理論づけて、今やってる仕事はこういう理由でやってるよって、で、この馬の扱いはこういう理由で、こういうことだよっていう教え方したいと思ってるんですよ。それをうまく理解してくれる人と、してくれない人がいるんですね。で、やっぱり昔スタイルで怒鳴って、それで覚える人も中にはいるようだし、そのへんはむずかしいですよね。人の管理というか、教え方は。自分は常にそういうやり方と、あとは書いたものとか、これ読んで自分で勉強しなさいという形を作りたいですね。
でも、やっぱりおもしろいのはそうやって課題を与えると、一生懸命やる子と全然やらない子と、そりゃいますよ。ええ。
── 人も馬も一緒みたいですね(笑)
 
(引き手を持つ手の位置や、歩く時の立ち位置にもセオリーがある)

 
(馴致が進むと馬は整然と1列で歩くようになる)
藤沢 かもしれません、ほんとに。ただね、これはどこに行っても馬に対して同じひとつのルールで接することができるということを覚えさせたいんですよ。
よく聞く話は、ヨーロッパなんか行くと、みんな馬の扱い同じだと、これがいいこと、いわゆる伝統なんだと。日本はまだそこまで行ってないですよね。今、どんどん新しい技術、ヨーロッパスタイルの技術を取り入れながら来てるし、僕らの牧場レベルではそういうことやろうとしてますけど、むしろトレセンなんか見ていると、なんだという感じありますね。馬の扱い方、それこそ馬の引き方なんかは腹立ってしょうがないですね。
彼らは、それなりに学校で教わってきているはずなのに、わりとひどい馬の引き方してますから。僕は牧場のスタッフには、その場面見せて、これじゃ絶対ダメだぞ教えてます。そこだけは一番こだわります、引き方の基本というのは。
── 引き方が大事だというのは、馬とのコミュニケーションのありかたということですか?
藤沢 うん、それは必ずあります。それはありますね。結局はコミュニケーションなんでしょうね。
人間も危険じゃない、それは馬にとっても気持ちよく歩く方法なんですね。もう絶対に馬っていうのは気持ちよく歩けるし、人間を頼ってきますから、だから、そういう部分では気性が悪いとか言う以前に、やり方があると思うんです。もちろん競馬場のレベルは違うという人もいるでしょうけれど、その前に、もっと基本を守ってからの話じゃないのと、言いたいですね。
── こちらに取材に来るようになって、トレセンの馬の扱いには疑問を感じてました。
藤沢 よく国際交流レースなんか見てても、外国から来る人で二人引きしている馬は1頭もいないです。外を付き添って歩く人はいても、両方で手綱とって引っぱってる人って100%見たことないです。だから、あのへんからおかしいんじゃないかって言うんですけど。
ぼくらは、だから基本的に引く時は手綱は一本で、一つの力で引くんだよと、一点でね。それをやらないとハミ受けが悪くなるし将来にも良くないからなんですよ。大事な競馬場で、そうでないことをしてるっていうのが残念だなと思います。まあ、それと馬を引いてる時に犬が放れようが、車が来ようが、それが原因で何があってもそれは引く人の責任だから、引く人がちゃんと対応しなさいと言ってるんです。できるんですよ。だけどトレセンなんかは、そういう原因を作った人がとにかく悪いという発想ですから、あれもダメだと思います。それは変えていかないとダメですから、引く人には口を酸っぱくして言ってます。まあ、乗ってる人ほどむずかしくないですから、そういうコントロールするのは。何とでもなるはずです。
── あれには参ります。取材に行くと。
藤沢 ホントにね、なんか自分の技術の無さなのか、持ってる人の怠慢を許して欲しいのか、ちょっと何かあると、「お前たち邪魔だぞ!」みたいな話になるでしょ、もう、ホントに残念。
で、あれが結局、馬を腫れ物みたいにしちゃって、ここから先は危険だから絶対に来るなよみたいな、競馬場もそうでしょ。あれがやっぱり我々日本人の文化の違いなのかも知れないけれど、ちょっと残念ですよね。
基本的に馬って、そんなに危険な動物じゃないですからね。それは、やっぱりこのレベルからでも変えていきたいし、僕らは自分の出来る分野では、それは徹底的に馬には教えようと思います。
ロンジングと速歩
 
(調馬索という長い帯状のロープで馬とコンタクトをとりながら運動させるロンジング)

 
(ウォーキングマシンは一定速度で回転するケージの中に馬を入れて強制的に歩かせる)
── ロンジングの目的はなんでしょうか?
藤沢 大きく分けてふたつあって、ひとつにはある程度エクササイズしてシェイプアップしようという事と、もうひとつは見た目にいい筋肉をつけたいという事ですね。ですから、普段はぼくら歩くことを中心にやりますけど、ロンジングをかけて速歩をさせる、あるいは駈歩(かけあし)にもなりますけれど、そういうことでより大きな負荷をかけて、筋肉を作っていくという事をしたいんですね。私が初めに習ったヨーロッパの牧場というのは、どちらかというとふっくらした感じの馬のつくりなんですね。でも、いろんな所見てくると、もう少し筋肉質の馬のタイプの方がセリ場では喜ばれるのかなっていう気がしますね。で、理想とする馬の最終的な仕上がりっていうのが、そういう形だと自分では思っているんですね。だから、余計運動させたいんですよね。
── ウォーキングマシンでスピードを上げて運動させるのとどう違うんですか?
藤沢 ええ、近いです。近いけどロンジングのほうが、より人間の手をかけられるというか、加減を調整できるから、より良いと思いますね。ウォーキングマシンってね、馬にはストレスかかるんですよ。やっぱり無理矢理ですし、1対1でやるロンジングのほうが馬にはいいと思いますね。ウォーキングマシンはあくまで運動不足の解消という感じで僕らは考えてます。
── 何か技術的にむずかしいところがあるんですか?
藤沢 いや、そんなにむずかしくないです。普通の速歩くらいでしたら、そんなにむずかしくないですね。ただ、オーバーワークにならないようにはしないといけないとは思いますけど。だから、やったあとにしっかりケガとか、筋とか負担かかってないかとかというのは気をつけないといけない。でも、15分20分、その程度でしたらね、そんなには。競走馬と違って人を乗せてませんから上に、そんなには負担かかんないんです。
── あと引き運動の時に速歩(はやあし)の練習もしてますね、あれはなぜやるんですか?
藤沢 なぜやるかというとJRAの購買でどうしても必要だということで、僕らやってるんですけれど、ふだん、ごらんのように少しペースアップして歩いていると、充分馬自身が速歩してますよね。そして、ハミがかかって引いていると特別な練習しなくてもできるはずなんです。ところがやっぱりうまくいってないのは、それは引く人と馬とのコンタクトがうまくとれてないんでしょうね。それは本当に基本の、ふだんの引き方をきちんとマスターすればそんなにむずかしくない、そう思うんですけど。
注6)JRAの購買
JRAは北海道市場主催のセレクションセール及びサマーセールの1歳市場で毎年70頭前後、売り上げにして2割近くを購買する大口の顧客となっている。そのJRAの要請を受けて主催者はセリ当日の午前中、展示の段階で上場馬の速歩を見せることを義務づけている。ただし、今年から再開された日本競走馬協会のセレクトセール1歳市場では速歩の展示なしでもJRAは購買しており、一部販売側から不満の声も聞かれた。
●労働力の不足と技術者の養成
── ところで、労働力の問題はないのですか、スタッフの数は足りてるのですか?
  藤沢 僕ら、今一番の問題は人の数と馬の数ですよねえ。どうしてもねえ、、、これがひとり1頭2頭だったら、もっともっと完璧なことできるなと思いますもん。もう手をかけるだけじゃなく、気持ちですよね。人間がゆったりするでしょ、そうするとやっぱり馬への当たりも良くなるんですね。どこかで無理かかって体が疲れてくると、どうしてもね、それはちょっと僕も申し訳ない部分もありながら、、、そういうのあるんで頭をひねって、時間でね、なんとか補えるようにとは思うんですけれど、ちょっとオーバーワークですよね。
── だいたい、どこもひとり4頭5頭はやってるんじゃないですか?
藤沢 そうでもないんじゃないですか、うちは特別多いと思います。ちょっとこれは限界ですよね。私見てて、3頭くらいならある程度完璧にできるかな、まだまだやっぱりね、その分いろんな形で補うようにはしてますし、運動量も減らないようにはしてますけどね、でも気持ちの余裕の問題って違うんでしょうね。
──

預託を受ける頭数を絞ることは考えませんか?

藤沢 いやホントいうと限定で高い馬ばかり選んでやれば効率いいですよ。でもやっぱりね、それは自分の信念としてやれないんです。同じ生産者として、そんな偉そうなことできませんしね。だから、そこは頭数の問題や人の数の問題になっちゃうんですね。ホント悩み多いですねえ。
── セリのための馴致ということでいうと期間が限られていますよね、1年の内で。従業員は?
藤沢 そうなんです。それが僕らにとっても一番の問題なんです。だいたい半年間ですけど、あとの半年は極端にヒマになっちゃいますね。でも、そもそもこれ始めたのも昼夜放牧始めたら全然手間いらなくなったでしょ、で、ちょうどいいなと、そういう事もあったんです。だけど、今度逆にこれだけ依頼があって、馬が来るようになると足りないですもんね。それが、本当に悩みですね。
── 馴致をできる技術を持った人というのはやはり少ないんですか?
藤沢 少ないですよね。その期間だけできる人っていうのは。あと、以前牧場でやったことあるって人は少ないですね。それこそヨーロッパなんか行くと、けっこう家庭の主婦だったり、普通の10代の女の子だったり、けっこう来るんですよね。ふだん牧場の仕事をしているわけじゃない、普通の家庭の、まあ乗馬やったりして経験あるのかも知れませんが、けっこうそういう子がいる、うらやましいなと思いますね。
それでね、ある程度馬になれると、あとはコツですから、そんなにはむずかしくないと思うんですね、何とかなるはずなんですけど、(やってみようという人が)いないんですね。
── 馴致技術者の養成はどのように考えていますか?
藤沢 習いたい人がいればいくらでも教えたいと思いますね。ひとりいるんですけれども、牧場の息子で、将来やってみたいということで、お父さんがその期間自分のところの馬と一緒に息子もと、来るケースがあります。どんどんそういうケースが増えてくれればいいと思うし、うちは基本的に全部オープンです、エサも含めて技術は隠さないですね。それは自分なりにやってきた経緯もあって、少しでも広めたいというのがありますし、それやることで自分自身がもっと勉強しなくっちゃという意識になれるんですね。それと、もうひとつは徹底的にオープンにしてやった結果どうだったかというと、やってみたけどやっぱ無理だわと、やっぱ頼むわという人が何人もいるんですよ。ええ、だからそれはそれで良かったと思いますね。一番はね、特別な技術じゃなく手間ひまなんです。どれだけ馬を引く時間があるかとか、あと、集団だと馬がすごく安心して引き運動できるんですよね、それはコンサイナーやっててすごくいい部分だなあと思いますね。
── 生産者牧場ではそれだけの時間がない、時間の問題?
藤沢 そうですね。それとやっぱり、たとえばひとりで牧場でやろうとするともっとむずかしい。馬がなかなか歩きたがらないですし、だからたとえば3頭くらいでもいいですから、牧場でスタッフがいて、時間が取れるんでしたら全然問題ない、できると思います。ほんとに特別の技術というのはそうそう無いですよね。
── この5年10年でコンサイナーという仕事が藤沢さんの所を初めとしていくつか出てきましたよね。この間セリの現場というのはずいぶん変わったんですか?
藤沢 確かに変わりました。今でも年によっていろいろやり方変わって、セリの主催者も多分試行錯誤の途中なんだろうなと思います、たとえば競り上がりかただとか。もちろん、僕らが上場前に持っていく馬のいろんな馴致も含めたレベルアップも当然してます。ただ、どうでしょうか、購買者のほうがまだまだ変わってないというか、セリに来ていながら、セリ場以外の別のところで買いたがる人もまだまだいますからね、このへんが残念ですよね。ま、それもこれもお客さんの数が少ないということでしょう。あるいは馬の数が多いのか。まだまだね、北海道に来たことのない馬主の人、いっぱいいるようですから、こういう人たちが足を運んでもらえると、いや、僕、場合によってはですね、必要とあらばそっちに、本州に馬持っていってもいいくらいの気持ちありますよ、売れるんなら。だからコンサイナーとしては、そういうことに障害はないですね。売れるところならどこでも行こうと言うことはあります。
●2006年 セレクションセールに向けて
── 今年セレクションセールに出す馬の仕上がりはいかがでしょう?
藤沢 まあ、何頭かケガしたということはありますけど、まあまあ、この馬はこういう風に仕上げていこうとか、エサをコントロールしながらやろうと言ってたのが、ほぼ、みんなそこそこには行ったかなとは思ってます。やっぱり、あとこれだけなんとかしたいとは必ず思うんですね。もう完璧というのは、そんなにないです。常にそうです、それは。こうしたかったな、ああしたかったな、もう一週間足りなかったなとか、ありますよ、それは。
── 牧場に見に来たりとか、連絡が入ったりとか、の反応は、今年はどうなんですか?
藤沢 どうでしょうね。いや、なかなかはっきり言ってくれないですからね、それ。
── そうですか。
藤沢 ただ、どうでしょう。かなり今年は質が高いと思ってますけど。それは、でも、お預かりしたのは偶然ていうか、お客さんがうちを選んでくれたんで、そのへんは毎年けっこうバラつきはあるんです。でも、そこそこ揃ったかなあと思いますね。
ただ、おもしろいのは、去年一昨年くらいからよく言われるようになったんですが、「いい馬できた時には頼むぞ」って、そう言ってくれると、うれしいなって思いますよね。技術をそれだけ買ってくれたとか、あまり変な馬じゃ頼むの恥かしいよなって言ってくれるようになったのは正直うれしいですよ、一番。よけいにいい結果を出したいと思いますよね。
いや、でも、みんながみんな売れるわけではないんでね、売れないときは辛いですよね。いっそ、自分の馬が売れない方が楽です、ホント。自分だけで我慢できるでしょ。
── 今年、藤沢さんの所の生産馬は、セレクションセールは?
藤沢 いえ、いないんですよ。セレクションにはいない、ちょっと不作で(笑)
ホントあれですね。思いのほか高く売れたりした時なんかね、いやホントに抱き合って喜ぶくらいの時って、けっこうありますよ。だけど、またすぐ隣で売れない人もいるの見ちゃうと、いやもう気の毒でね。なんか、もう、その繰り返しですね。

ここからは7月18日、セレクションセール1歳市場終了後に行われたインタビューである。この時のインタビューの大半は、ここまでに紹介したものと内容が重複するので割愛するが、セリの現場で何が起こっているか、その実際の姿を知っていただくために必要と思われる部分を抜粋して再構成した。ただ、誤解のないように付け加えておくが、藤沢さんが語るセリのプレーヤーである主催者や馬主や生産者、あるいは仲立業者(馬喰)など個々のありようについて、我々第三者が批判することは容易だが、おそらく感情論にしかなっていかないだろうと思われる。問題は圧倒的な買い手市場がもたらす流通の機能不全とでも呼ぶべきものであり、これは構造的な問題である。そして、だからこそ藤沢さんは市場の改革を「私の役目」と語るのである。

 
(エバグリーンSCがコンサイニングした馬に注目が集まった午前中の展示)

 
(06年セレクションセール1歳でエバグリーンSCは預託を受けた馬14頭を上場し10頭を売却した)
── 1歳馬の市場について、購買者の手応えはどうでしたか?
藤沢 私がこの仕事を始めてから、近年どちらかというと下降気味の時期だったんですね。で、今回のセリは明らかに少し上向いてるなという感覚は持ちました。確かに1頭1頭はそんなに思ったほどの値段じゃないんですが、売却率は伸びていますし、マーケット自体は良くなってきてるという感触はつかめました。
── 今回、ハッピーネモファームとか藤沢さんのエバグリーンセールスコンサインメントとか、チェスナットファームさんなどコンサイナーが仕上げた馬が上位の成績を収めたと思うのですが、この結果をどう考えていますか?
藤沢 おそらく生産者自身がコンサイナーを選ぶようになった、と言うことは我々の所に来る段階である程度吟味されて、いいものが来るようになった、その結果なのかなと思ってます。それは我々も努力するし、生産者もそういう形で選択してくれるという両方かなと、そう思いたいですね。
── 藤沢さん個人のことですが、これからの夢って何ですか?
藤沢 そうですね、もちろんロジックのようなGI馬を数多くコンサイナーとして手がけたいというのもありますし、ただやっぱり私は、この生産界全体が、もっともっと開かれた市場になっていくということが私の役目でもあるかなあと思っています。そのための活動というか、ま、コンサイナーに限らずどんどん意見を言っていきたいと思っています。
── 開かれた市場というのは、流通の円滑化と言うことですよね。
藤沢 そうです、その通りです。馬の好きな人、馬主になりたい人が気軽にこの市場に来て馬を買うという、そんなスタイルを作りたいし、また、馬というのはどんどん転売も出来るよと、そんな形を作っていきたいなあと思ってます。できると思うんですね。
── あえてお聞きします、何が問題?
藤沢 いや、これはやっぱり日本の古いスタイルで馬喰と呼ばれる方が、正直暗躍してます。はっきり言いますが、この市場でも売れる前に先に決めたいという話があります。今回、私のところは、そんなもの100%お断りしましたけれど、そういう話があるんです。ですから私は、毅然とした態度でそれをやめたいし、やめるにはですね、どんどんお客さんが来てくれるということがないとやりにくいんですね。我々も弱くなります。もうひとつあります。たとえば市場で買ったあとで馬主さんが、今回もあったのですが、預託期間を決められた日にちよりももっと長く置いてくれと、ゴリ押しするケースがあるんですね。これは少なくとも買う方と売る方が対等じゃないという状況があるんです。これは本当に開かれた市場にするために、まだまだ改革していかなきゃならない部分です。市場というのは売る方と買う方が対等ということが大前提ですから。それをもっと追求したいなと思います。
── それはどういう意味ですか?売買契約が成立すれば預託料は当然発生しますが、それを払わないとか?
藤沢 そうですね、預託料の話になっちゃう。悪しき習慣として買った人は要するに立場が強くて秋まで預託料はタダで置けという格好になるんですね。そうすると何が起きるかというと、もちろん生産者は原価でそんなにお金はかからないかも知れない、だけどもしその間に事故があった時どうなるんだということで、悲しい思いをしているケースをいくつも見ています。理想からいうと、欧米スタイルで鐘が鳴った時点で所有権が変わりますと、あとは買った側が預託先も含めて自由に考えてくださいというスタイルに本当は持っていきたいですね。そうすればトラブルは半減すると思います。そうなりたいと思ってます。
── コンサイナーとしてのご自分の課題は?
 
   (賛否両論あったレントゲン撮影)
藤沢 まだまだスタッフのレベルアップは必要だと思っています。私自身もそうですけど。それとお客様にですね、充分な情報提供をどれだけできるかっていうことを、これからもっと勉強してレベルアップしていかなければならないでしょう。それと、今回新たに出てきた各部位のレントゲン写真の問題がありますよね。情報をお客様に開示することが、どれだけ販売促進につながるかということを、僕らももっと勉強しなくてはならないし、そのへんが課題かなと思ってます。
個々のスタッフのレベルはまだまだそんなに胸を張れる状態ではないと思ってますから、それは本当に勉強かなと思ってますね。
── ちなみにレントゲンに関しては、買われたお客様から見せてくれという話はありましたか?
藤沢 個別ではなく、それはラボで見てるケースが多々あると思うんですね。ただ、それは我々にはわからないんです。うちは基本的にすべて撮って提供しようというスタイルをとりましたが、セリ全般を見た時に、まだまだ、それは買った人が自由に選ぶべきだという人もいますし、これはこれからまだまだです。皆さんの意識の問題もあると思うんですね。ま、いろんなひとの意見を聞きながらひとつの方向にまとめていくべきだと思いますね。
注7)預託期間
北海道市場業務規定では1歳馬市場の場合、当該市場終了日の翌日から15日以内に購買者に馬を引渡すと定められており、販売申込者は引渡しまでは「無償にて善良な管理注意義務を負う」とされている。したがって引渡しが終わり所有権が移転していれば16日目以降は当然預託料が発生するのだが、なかなかそうはならない。売買成立後の移動の打ち合わせ等をコンサイナーが引受けることで、ルールを守らせることが容易になると考えられる。
注8)対等という前提
対等という前提が崩れている例として藤沢さんは後日筆者に次のような例を示した。
主催者はお台(販売最低希望価格)の大まかな価格帯を公表している。これはサービスの意味合いもあるが、ただでさえ買い手市場のうえに、始めから売る側の手の内をさらけ出すことで、販売者に更なる不利を強いていると藤沢さんは考えている。購買者は自分の考える値段で遠慮なく声をかければよく、それが販売希望価格に届かなければ売買が成立しないだけのことなのだが、日本では購買者が販売者に「お台」を尋ねると言うことも当たり前のように行われていて、藤沢さんはスタッフに「お台を聞かれても知らないと言え。」と申し合わせたところ、スタッフの教育がなってないと批判を浴びたこともあると言う。
注9)悲しい思いをしている
市場で売買された馬について、市場業務規定に指定された骨の疾病や怪我などが見つかった場合に、キャンセル期間(3日間)内であれば購買者はこれをキャンセルできる。しかし、キャンセル期間を過ぎてからこれらの欠陥が見つかった場合にもトラブルは起きるし、特に無料で預託を受けた場合に骨折などの怪我をすると、それが飼養者の過失なのか不可抗力なのかの判定から補償に至るまでこじれるケースが多々ある。
ちなみに、北海道市場では当歳馬のセリで販売された馬については、販売申込者の負担で市場保険に加入することになっているが1歳馬にはそれがない。
注10)レントゲン写真
上場馬の脚部レントゲンを撮影して開示するというのはJRAのブリーズアップセールがこれを行い、さらにセレクトセールが続いたことで北海道市場も急遽これに追随する形で撮影・開示を決めたが、その主旨ややり方が充分検討されないままスタートしたために販売申込み者の理解を得られなかった。特に「やり方」の部分で、撮影を決めたのが急で日程的にも無理があり、結局撮影は任意、費用は主催者負担となった。
上場馬の情報をより多く購買者に提供し、買う馬を選びやすくするという意味で情報開示は推進されるべきであるが、競走馬の骨の形や、その異常について、何がどれだけ競走能力に影響を与えるか適正な評価を下すことは、それを見る獣医師にも相当の見識が求められる仕事で、獣医師なら誰にでも出来るという仕事ではない。セレクトセールではそのために獣医師を対象とした講習会まで開かねばならなかった。
〔まとめ〕

2006年の競走馬セリ市場はどこも前年を上回る好成績で終始し、馬産地にもいくらか明るさが戻ったように見える。しかし、セリの好況と生産界全体の好況は必ずしも同じではない。2005年の日本のサラブレッド(サラ系を含む)の生産頭数は7967頭。87年以来18年ぶりに8000頭を割り込んだ。競走馬の生産頭数は中央・地方の競馬主催者の元に送り込まれる入厩頭数に比例する。そういう意味では生産頭数が更に減り続ける可能性は大いにある。競馬の実態に見合った生産頭数が最終的に5000頭、あるいは6000頭くらいになっても不思議ではない。生き残るのが中央と南関だけになればそういう数字になる可能性は充分にある。

また、地方競馬の先行きに出口が見えていない現状で馬を買う馬主の絶対数が激減している。中央競馬は調教師の管理可能頭数を増やしたためここ5〜6年の登録頭数こそ8000頭から9000頭へと急激に増えたものの、未勝利戦の数が減らされ、未勝利のまま登録を抹消される馬も同じように増えている。そして、このことは間違いなく総体としての馬主経済を逼迫させているだろう。その反動の兆はすでに出ている。今年のセリ市場の好況は売却率の上昇や総売上額の上昇をもって語られるが、これに反して1頭あたりの平均価格が下がっているところに馬主の購買力の低下を見て取ることも可能なのである。見方を変えるなら、セレクトセールへ押しかけ億の単位で良血馬を取り引きする一部の馬主と日高で安くて確実に走りそうな馬を買おうとする馬主と両極化が進んでいるともとれる。

そういう状況下で生き残りを賭ける生産者は「確実に売る」コンサイナーにより多くのものを期待するであろうし、馬主もより多くの馬を見て確実に走りそうな馬を探そうとセリ市場へ足を運ぶようになる。庭先取引よりもセリ市場へという動きは今後も加速するだろうし、当歳よりも1歳、1歳よりも2歳トレーニングセールへと取引の重心が移っていく可能性も充分にある。

こうした背景を考える時、市場に定着した感のあるコンサイナーの存在は大きな意味を持つ。単に馬を仕上げるだけでなく、その取引の透明性で生産者の支持を集めているからである。そして支持を集めている今だからこそ「市場をより自由に、開放的に」と語る藤沢さんの役割は極めて大きいし、責任も大きい。その活躍にエールを送りたい。
2006年11月
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